3回生後期に志望にあぶれてやらされることになってやった話をどうせ他で使わないのでまとめておこうと思う.ちょっと雑かもしれないけれど.
以下では,体 $k$ の元を係数にもつ $x_1,\ldots,x_n$ の多項式の集合を $k[x_1,\ldots,x_n]$ とかく.
多変数多項式の割り算
まずは1変数の場合について考えてみると,以下のように割り算ができる.
$k[x]$ における割り算
2つの1変数
多項式 $f,g\in k[x]$ があったとき, $f$ を $g$ で割ることができる:
$$
\begin{align}
f=qg+r
\end{align}
$$
この関係をみたす $\deg r<\deg g$ をみたす商 $q$ と余り $r$ が一意的に存在する.
例えば, $f=2x^2+3x-4$ , $g=x+1$ のときは $q=2x+1$ , $r=-5$ となる.
では,1変数ではなく $n$ 変数多項式の場合はどうなるのか?ということなのだが,変数に対して順序を定めれば割り算を定めることができる(ただし, $n=1$ の場合でも整合性のある順序であるようなものが採用されるべき).
単項式順序
$k[x_1,\ldots,x_n]$ 上の単項式順序とは, $k[x_1,\ldots.x_n]$ の単項式 $x^\alpha$ ( $\alpha\in\mathbb{Z}_{\geq 0}^n$ )の集合上の関係 $>$ で次の3つを満たすものである:
- $>$ は全順序関係である.
- $>$ は $k[x_1,\ldots,x_n]$ は乗法と両立する.すなわち $x^\alpha>x^\beta$ のとき,任意の単項式 $x^\gamma$ について $x^\alpha x^\gamma=x^{\alpha+\gamma}>x^{\beta+\gamma}=x^\beta x^\gamma$ が成り立つ.
- $>$ は整列順序である.つまり,空でない任意の単項式の集合は $>$ に関する最小元をもつ.
一般化して書いているのでわかりにくいかもしれないが,1行目で $x^\alpha$ と書いているものは,上で $n=3$ , $\alpha=(2,1,3)$ とすれば, $x^\alpha=x_1^2 x_2^1 x_3^3$ といったものである.
なお,上の定義には $x_1,\ldots,x_n$ の順序についての言及がないことにも注意.
この単項式順序と呼ばれる順序 $>$ は,これまで慣れ親しんできた$k[x]$の単項式元で考えてみれば $1<x<x^2<x^3<\cdots$ のようになっており,これまで1変数多項式の場合に(高校などで自然に)考えていた順序も単項式順序の性質をもつことがわかる.
単項式順序の性質をもつ順序は複数ある.具体例の1つとして辞書式順序を挙げておく.
定義(辞書式順序 $>_{\mathrm{lex}}$ )
$x^\alpha,x^\beta\in k[x_1,\ldots,x_n]$ について,差 $\alpha-\beta\in\mathbb{Z}^n$ の最も左にある $0$ でない成分が正であるとき, $x^\alpha>_{\mathrm{lex}}x^\beta$ であると定義する.
多変数多項式の割り算を行うのに導入しておくと便利な記号として主項というものがあるのでここで導入する.なお,主係数,主単項式という概念もあるのであわせて紹介することにする.
定義(主項,主係数,主単項式)
$k[x_1,\ldots,k_n]$ 上の任意の単項式順序 $>$ を固定し, $f=\sum_\alpha x_\alpha x^\alpha$ の項を考える.いま, $x^\alpha$ が $f$ に現れる順序 $>$ に関する最大の単項式であるとする.このとき $f$ の $>$ に関する主項とは,積 $c_\alpha x^\alpha$ のことであり,主係数とは $c_\alpha$ ,主単項式とは $x^\alpha$ のことである.記号としては以下を用いる:
- 主項 $\textrm{LT}(f)=c_\alpha x^\alpha$
- 主係数 $\textrm{LC}(f)=c_\alpha $
- 主単項式 $\textrm{LM}(f)=x^\alpha$
単項式順序と主項の記号を導入したので,多変数多項式の割り算のアルゴリズムを紹介することができる.
$k[x_1,\ldots,x_n]$ における多項式の割り算
$k[x_1,\ldots,x_n]$ の任意の単項式順序を固定し, $F=(f_1,\ldots,f_s)$を$k[x_1,\ldots,x_n]$ の順序づけられた$s$個の
多項式の組とする.このとき,任意の
多項式 $f\in k[x_1,\ldots,x_n]$ は次のような表示をもつ:
$$
\begin{align}
f=a_1f_1+\cdots+a_sf_s+r
\end{align}
$$
ただし各文字は以下をみたす:
- $a_i,r\in k[x_1,\ldots,x_n]$ ( $i=1,\ldots,s$ )
- $a_if_i=0$ か $\mathrm{LT}_{>}(f)\geq\mathrm{LT}_{>}(a_if_i)$ ( $i=1,\ldots,s$ )
- $r$は$0$ か $\mathrm{LT}_{>}(f_1),\ldots,\mathrm{LT}_{>}(f_s)$ のいずれでも割り切れないような単項式の線型結合
この $r$ を $f$ の $F$ による余りと呼び
$$
\begin{align}
r=\overline{f}^{F}
\end{align}
$$
と表す.
例として, $f=x^2y^6$ , $F=(x^2y^2-x^4,xy^3-y^4)$ を考えてみる.今回は単項式順序として $>_{\mathrm{lex}}$ を採用する.
- $x$ と $y$ の順序を $x>y$ として割り算を実行してみる.
- $\mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}} (x^2y^2-x^4) =-x^4$
- $\mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}} (xy^3-y^4)=xy^3$
- $\mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}} (x^2y^2-x^4) >_\mathrm{lex} \mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}}
(f)$ なので, $f$ を $x^2y^2-x^4$ で割ることはできない.
- 一方, $\mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}}(f) >_\mathrm{lex}
\mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}}(xy^3-y^4)$ なので, $f$ を $xy^3-y^4$ で割ることができる.
- よって
$$
\begin{align}
f=0\cdot(x^2y^2-x^4)+(xy^3+y^4)(xy^3-y^4)+y^8
\end{align}
$$
となる.
- $x$ と $y$ の順序を $x < y$ として割り算を実行してみる.
- $\mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}} (x^2y^2-x^4)=-x^2y^2$
- $\mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}} (xy^3-y^4)=y^4$
- $\mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}} (f) >_\mathrm{lex} \mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}}
(x^2y^2-x^4)$ なので, $f$ を $x^2y^2-x^4$ で割ることができる.
- $\mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}} (f) >_\mathrm{lex} \mathrm{LT}_{>_\mathrm{lex}}
(xy^3-y^4)$ なので, $f$ を $xy^3-y^4$ で割ることができる.
- よって,どっちから割っても割り算が成立するので,割る順番を考慮することになる.
- 先に $x^2y^2-x^4$ で割ると
$$
\begin{align}
f=(y^4+x^2y^2+x^4)(x^2y^2-x^4)+0\cdot(xy^3-y^4)+x^8
\end{align}
$$
- 先に $xy^3-y^4$ で割ると
$$
\begin{align}
f=(xy^3+y^4)(xy^3-y^4)-x^4(xy^3-y^4)+x^7y
\end{align}
$$
となって,2通りの表示が得られる.
記号の定義
グレブナー基底を利用して連立方程式を解く方法を説明するのに必要な定義だけ並べる.
定義(多項式で生成される空間)
多項式$f\in k[x_1,\ldots,x_n]$に対して,$\langle f_1,\ldots,f_s\rangle$を
$$
\langle f_1,\ldots,f_s\rangle=\{p_1f_1+\cdots+p_sf_s:p_i\in k[x_1,\ldots,x_n],i=1,\ldots,s\}
$$
とする.
定義(イデアル)
空でない部分集合 $I\subset k[x_1,\ldots,x_n]$ が
イデアルとは,以下が成り立つときにいう:
- $f,g\in I\,\Rightarrow\, f+g\in I$
- $f\in I\,\Rightarrow\, \forall p\in k[x_1,\ldots,x_n],pf\in I$
定義(消去イデアル)
$I\subset k[x_1,\ldots,x_n]$ を
イデアルとするとき,
第 $l$ 消去イデアル(または
$l$ 次の消去イデアル)とは以下で定まる$I_l$のこと:
$$
I_l=I\cap k[x_{l+1},\ldots,x_n]
$$
$I=\langle f_1,\ldots,f_s\rangle$ として $I_l=I\cap k[x_{l+1},\ldots,x_n]$ は連立方程式 $f_1=\cdots=f_s=0$ から変数 $x_1,\ldots,x_l$ を消去して得られる多項式全体である.
定義(アフィン多様体)
$k$ を体, $f_1,\ldots,f_s\in k[x_1,\ldots,x_n]$ とする.
アフィン多様体とは,
連立方程式
$$
\begin{align}
f_1(x_1,\ldots,x_n)&=0 \\
f_2(x_1,\ldots,x_n)&=0 \\
&\vdots \\
f_s(x_1,\ldots,x_n)&=0 \\
\end{align}
$$
の解$(a_1,\ldots,a_n)\in k^n$全体の集合のことで,$\mathbf{V}(f_1,\ldots,f_s)$と表す.すなわち
$$
\mathbf{V}(f_1,\ldots,f_s)=\{(a_1,\ldots,a_n)\in k^n : f_i(a_1,\ldots,a_n)=0,i=1,\ldots,s\}
$$
である.
なお,$I=\langle f_1,\ldots,f_s\rangle$のようになっている時,$f_1=\ldots=f_s=0$の解全体の集合を$\mathbf{V}(I)$のように略記する.
定義(グレブナー基底)
$k[x_1,\ldots,x_n]$ 上の単項式順序 $>$ を固定, $I\subset k[x_1,\ldots,x_n]$ を
イデアルとする.このとき, $I$ の $>$ に関する
グレブナー基底とは,
多項式の有限集合 $G=\{g_1,\ldots,g_t\}\subset I$ であって, $0$ でない任意の $f\in I$ について, $\mathrm{LT}(f)$ がある $\mathrm{LT}(g_i)$ で割り切れるようなものである.
グレブナー基底の構成法が気になるところだが,最も初歩的なものとしてはブッフベルガーのアルゴリズムと呼ばれているものがある.wikipedia等を参照してほしい.見て貰えばわかるが,ものすごく遅そうなアルゴリズムである.実際遅いらしい.これの改良版として,最近ではF4とかF5とかいうアルゴリズムが知られている.
グレブナー基底を利用した連立方程式の解き方
連立方程式
$$
\begin{align}
f_1(x_1,\ldots,x_n)&=0 \\
f_2(x_1,\ldots,x_n)&=0 \\
&\vdots \\
f_s(x_1,\ldots,x_n)&=0
\end{align}
$$
を解くことを考える.
グレブナー基底を用いると以下のような手順で解くことができる.
- $I=\langle f_1,\ldots,f_s\rangle$のグレブナー基底$G=\{g_1,\ldots,g_t\}$を求める.
- $1\leq l\leq n$について第$l$消去イデアル$I_l$(のグレブナー基底$G_l$)を求める.
- $I_n$のグレブナー基底$G_n=\{g\}$について$g=0$を解き$\mathbf{V}(I_n)$を求める.
- $(a_{l +1},\cdots,a_n) \in \mathbf{V}(I_l)$とし,$I_{l -1}$ のグレブナー基底 $G_{l -1}$ から $G_l$ を取り除いた多項式たち $G_{l -1}\backslash G_l=\{g_{l -1,1},\ldots,g_{l -1,u}\}$ について$g_{l -1,1}(x_l,a_{l +1},\cdots,a_n)=\cdots=g_{l -1,u}(x_l,a_{ l +1},\cdots,a_n)=0$ とおいた式を(すべての $\mathbf{V}(I_l)$ の元について)解いて $\mathbf{V}(I_{l -1})$ を求める.これを繰り返す.
4.を$I_0=I$まで行えば,$\mathbf{V}(I)$,すなわち求めたかった解が求まっている.
手続き的に書いているのでわかりにくいかもしれないが,グレブナー基底を求め,変数の数が最も少ない$g_i\in G$を選んで解を求め,前段階で求めた解を順次代入していけば解が求められるということである.
例を挙げる.以下の連立方程式:
$$
\begin{align}
x^2+y^2+z^2&=4 \\
x^2+2y^2&=5 \\
xz&=1
\end{align}
$$
をグレブナー基底を用いて解く.
- グレブナー基底を計算すると,
$$
G=\{2z^3-3z+x,-1+y^2-z^2,1+2z^4-3z^2\}
$$
となる.グレブナー基底を求めるには,例えばwolfram alphaで
GroebnerBasis[{x2 + y2 + z2 − 4, x2 + 2y2 − 5, xz − 1}, {x, y, z}]
と打ち込んでやれば求めてくれる.
GroebnerBasis[{x2 + y2 + z2 − 4, x2 + 2y2 − 5, xz − 1}, {x, y, z}] - Wolfram|Alpha
- $I_1=I\cap k[y,z]=\langle -1+y^2-z^2,1+2z^4-3z^2 \rangle$ , $I_2=I\cap k[z]=\langle 1+2z^4-3z^2 \rangle$ となる.($I=\langle G\rangle$であることを利用している.)
- $1+2z^4-3z^2=0$ をとく. $1+2z^4-3z^2=(z-1)(z+1)(2z^2-1)=0$ から $z=\pm 1,\pm 1/\sqrt{2}$ と求められる.
- $-1+y^2-z^2=0$に3.で求められた$z=\pm 1,\pm 1/\sqrt{2}$を代入して計算する.
- $z=\pm 1$ の場合: $y^2-2=0$ をといて $y=\pm\sqrt{2}$ .
- $z=\pm 1/\sqrt{2}$ の場合: $y^2-3/2=0$ をといて $y=\pm \sqrt{6}/2$ .
次に$2z^3-3z+x=0$へ上で求められた$z=\pm 1,\pm 1/\sqrt{2}$を代入する.
- $z=1$ の場合: $-1+x=0$ をといて $x=1$ .
- $z=-1$の場合:$1+x=0$ をといて $x=-1$ .
- $z=1/\sqrt{2}$ の場合: $-\sqrt{2}+x=0$ をといて $x=\sqrt{2}$ .
- $z=- 1/\sqrt{2}$ の場合: $\sqrt{2}+x=0$ をといて $x=-\sqrt{2}$ .
以上より,解は $(x,y,z)=(1,\pm\sqrt{2},1),(-1,\pm\sqrt{2},-1),(\sqrt{2},\pm\sqrt{6}/2,1/\sqrt{2}),(-\sqrt{2},\pm\sqrt{6}/2,-1/\sqrt{2})$ となる.
ちなみに,wolfram alphaにGroebnerBasis以下を打ち込んでやると,それらの根まで求めてくれる.その値はこれに一致している.
これで求められる理由
イデアル $I$ とそのグレブナー基底 $G$ って関係なくない?って思われるかもしれないが,以下の関係があることが示せる.
さらに,以下の関係もある.
多項式が張る空間と連立多項式の根の関係
$k[x_1,\ldots,x_n]$ において $\langle f_1,\ldots,f_s\rangle=\langle g_1,\ldots,g_t\rangle$ ならば $\mathbf{V}(f_1,\ldots,f_s)=\mathbf{V}(g_1,\ldots,g_t)$ である.
これによって,$I=\langle f_1,\ldots,f_s\rangle$の代わりにそのグレブナー基底$G={ g_1,\ldots,g_t}$をを使い,$g_1=\cdots=g_t=0$を考えても,元の$f_1=\cdots=f_s=0$の解と同じものが得られることがわかる.
下に紹介する消去定理と拡張定理が,グレブナー基底を使って順次解を求めていくという方法がうまくいくことを保証してくれているものになっている.
消去定理
$I\subset k[x_1,\ldots,x_n]$ を
イデアルとし, $G$ を $I$ のlex順序 $x_1>x_2>\cdots>x_n$ に関する
グレブナー基底とすれば,
$$
G_l=G\cap k[x_{l+1},\ldots,x_n]
$$
は第 $l$ 消去
イデアル $I_l$ の
グレブナー基底である.
任意に $f\in I_l\subset I$ をとる. $G=\{g_1,\ldots,g_t\}$ を $I$ の
グレブナー基底とすれば,
グレブナー基底の定義から,ある$g_i\in G$ であって $\mathrm{LT}(g_i)$ が $\mathrm{LT}(f)$ を割り切るようなものがある. $f\in I_l$ は変数 $x_1,\ldots,x_l$ を含まないので, $\mathrm{LT}(g_i)$も$x_1,\ldots,x_l$ を含まない.さらに, $\mathrm{LT}(g_i)$ がlex順序の主項なので, $\mathrm{LT}(g_i)$ 以外の $g_i$ の項はそれより順序が低い.つまり $x_1,\ldots,x_l$ を含まない項となっている.したがって $g_i\in k[x_{l+1},\ldots,x_n]$ となっていることがわかる.よって $g_i\in G_l=G\cap k[x_{l+1},\ldots,x_n]$ である.以上から,任意に $f\in I_l$ をとると,ある $g_i\in G_l$ であって $\mathrm{LT}(g_i)$ が $\mathrm{LT}(f)$ を割り切るようなものがあることがいえたので, $G_l$ が $I_l$ の
グレブナー基底であることがわかった.
拡張定理
代数的閉体 $k$ について,部分解 $(a_{l+1},\ldots,a_n)\in\mathbf{V}(I_l)$ は, $I_{l -1}$ のlex順序 $ x_1 > x_2 > \cdots > x_n$ に関する
グレブナー基底の元 $f$ で, $\mathrm{LC}_{x_l}(f)(a_{l +1},\ldots,a_n)\neq 0$ をみたすものが存在するならば, $(a_{l},a_{l+1},\ldots,a_n)\in\mathbf{V}(I_{l -1})$ に拡張できる.
$\overline{g}=g(x_l,a_{l +1},\cdots,a_n)$ , $\overline{I}_{l -1}$ を $I_{l -1}\subset k[x_l,\cdots,x_n]$ の元に $(a_{l +1},\cdots,a_n)$ を代入することで得られる
イデアルとする.
$f\in G_l$ が $\mathrm{LC}_{x_l}(f)(a_{l +1},\cdots,a_n)\neq 0$ を満たすとすれば,ある $g\in G$ であって $\mathrm{LC}_{x_l}(g)(a_{l +1},\cdots,a_n)\neq 0$ をみたすものがとれる.下の
補題から,特に $\overline{I_{l -1}}=\langle \overline{g}\rangle$ であり, $x_l$ の次数が最小であるものとしてよい.
$\deg_{x_l}g=0$ とすると, $g\in k[x_{l +1},\ldots,x_n]$ となるので $g\in I_l$ となるが, $(a_{l+1},\cdots,a_n)\in\mathbf{V}(I_l)$ なので, $\mathrm{LC}_{x_l}(g)(a_{l +1},\ldots,a_n)=0$ となり矛盾.よって $\deg_{x_l} g>0$ .このとき $\deg_{x_l} g=\deg_{x_l} \overline{g}>0$ .よって $\overline{g}(x_l)\in k[x_l]$ は $k$ に少なくとも1つ根をもつ.このとき, $\overline{g}(x_l)=0$ をみたす $x_l=a_l$ とすれば $a_l\in\mathbf{V}(\overline{g})=\mathbf{V}(\overline{I_{l -1}})$
よって, $(a_l,a_{l +1},\ldots,a_n)\in \mathbf{V}(\overline{I_{l -1}})\times \mathbf{V}(I_l)\subset\mathbf{V}(I_{l -1})$ とできる.
以下の
補題は証明は行わないが掲載しておく.
補題
$g\in G_l$であって$\mathrm{LC}_{x_l}(g)(a_{l +1},\cdots,a_n)\neq 0$をみたすようなものが存在するならば,$g\in G_l$であって$\mathrm{LC}_{x_l}(g)(a_{l+1},\cdots,a_n)\neq 0$かつ$x_l$の次数が最小であるようなものが存在し,$\overline{g}=g(x_l,a_{l +1},\cdots,a_n)$,$\overline{I}$を$I\subset k[x_l,\cdots,x_n]$の元に$(a_{l +1},\cdots,a_n)$を代入することで得られる
イデアルとすると$\overline{I}=\langle \overline{g}\rangle$が成り立つ.
$I_{l -1}$の
グレブナー基底を$G_{l -1}=\{g_1,\ldots,g_t\}$とかく.
- 代数的閉体(1次以上の任意の$k$係数変数多項式が$k$上に根を持つような体$k$のこと.$\mathbb{C}$など.$\mathbb{Q},\mathbb{R}$などは代数的閉体ではない.)でない場合,$g_1(x_l,a_{l+1},\cdots,a_n)=\cdots=g_t(x_l,a_{l+1},\cdots,a_n)=0$が考えている体$k$上に解$x_l=a_l$をもたない場合があり,そのときは拡張定理が成立しない.
- すべての$f\in G_{l -1}$について$c_q(a_{l +1},\ldots,a_n)=0$になるとき,$x_l$の最高次の項が消えることになる.このとき$g_1(x_l,a_{l +1},\cdots,a_n)=\cdots=g_t(x_l,a_{l +1},\cdots,a_n)=0$が解$x_l=a_l$を持たない場合があり,そのときは拡張定理が成立しない.
消去定理によって $I_l=\langle G_l\rangle$ と書けることわかるので, $G_l=\{ g_{ l,1 },\ldots,g_{ l,u } \}$ としたとき$g_{ l,1 }=\cdots=g_{ l,u }=0$ を解くことで $V(I_l)$ の元を求められる.
その後,拡張定理を用いて$V(I_l)$を$V(I_{l -1})$に拡張する.拡張定理の仮定を満たさないものは解にならない可能性がある.この操作を進める時に,拡張定理から主係数が$0$でない場合は解が存在していることが保証される.これを繰り返して$V(I)$を求める.
このように順番に解いていけるのはグレブナー基底の性質のおかげである.イデアル $I$ が $x_n$ だけからなる多項式を元として持てば,辞書式順序 $x_1>x_2>\cdots>x_n$ によるグレブナー基底は $x_n$ だけからなる多項式を含む.すなわち,グレブナー基底の定義より,イデアル $I$ のグレブナー基底 $G={ g_1,\ldots,g_t } $ について,任意に $f\in I$ を取ってくると $\mathrm{LT}(f)$ はある $\mathrm{LT}(g_i)$ ( $g_i\in G$ )で割ることができる.したがって $f\in I$ が $\mathrm{LT}(f)= x_n^k $ であれば, $\mathrm{LT}(g_i)= x_n^l $ ( $ l \leq m $ )となっているはずである.
終結式(判別式の拡張)
多項式同士が共通因子を持つか判定する方法.
2つの$k[x]$上の1変数多項式を考える:
$$
\begin{align}
f&=a_0x^l+\cdots+a_l \quad (a_0\neq 0,l>0) \\
g&=b_0 x^m+\cdots+b_m \quad (b_0\neq 0,m>0)
\end{align}
$$
この $f,g$ が共通因子を持つか,つまり連立方程式$f=g=0$が解を持つか判定してくれる表式が次の終結式と呼ばれるものである.
定義(終結式)
$f,g$ の
終結式 $\mathrm{Res}(f,g)$ とは,$(l+m)\times (l+m)$
行列式
$$
\begin{align}
\mathrm{Res}(f,g)=\det
\begin{pmatrix}
a_0 & & & & b_0 & & & \\
a_1 & a_0 & & & b_1 & b_0 & & \\
a_2 & a_1 & \ddots & & b_2 & b_1 & \ddots & \\
\vdots & a_2 & \ddots & a_0 & \vdots & b_2 & \ddots & b_0 \\
a_l & \vdots & \ddots & a_1 & b_m & \vdots & \ddots & b_1 \\
& a_l & & a_2 & & b_m & & b_2 \\
& & \ddots & \vdots & & & \ddots & \vdots \\
& & & a_l & & & & b_m
\end{pmatrix}
\end{align}
$$
のこと.$a$ 側は $ m $ 列,$b$ 側は $l$ 列.空白は $0$ .$x$ に依存していることを強調するときは $\mathrm{Res}(f,g,x)$ とかく場合もある.
なお,これはシルベスターの行列式といわれるものと同じ形をしている.
終結式には以下の3つの性質がある(証明はせず紹介にとどめる).
終結式の3つの性質
- 整多項式性: $\mathrm{Res}(f,g)$ は $f,g$ の係数についての整数係数の多項式である.
- 共通因子性: $\mathrm{Res}(f,g)=0\,\Leftrightarrow\,$ $f,g$ が $k[x]$ において共通因子をもつこと.
- 消去性: $Af+Bg=\mathrm{Res}(f,g)$ を満たす多項式$A,B\in k[x]$が存在する. $A,B$ の係数は $f,g$ の係数についての整数係数多項式.
- 整多項式性が意味しているのは,ある多項式 $\mathrm{Res}_{l,m}\in\mathbb{Z}[u_0,\ldots,u_l,v_0,\ldots,v_m]$であって, $\mathrm{Res}(f,g)=\mathrm{Res}_{l,m}(a_0,\ldots,a_l,b_0,\ldots,b_m)$となるものがあるということ.
- 共通因子性については,共通因子をもつということは, $f=g=0$ が共通の解を持つということである.
- 消去性は,消去理論(消去定理)との対応がある.
上では定義としてシルベスターの行列式を利用したが,他の表式もある.
終結式のかきかえ
$f,g\in k[x]$ の根を $ \alpha_1 , \ldots , \alpha_l , \beta_1 , \ldots , \beta_m $ とする(これらの根は$k$より大きな体にあるかもしれない).このとき
終結式は
$$
\begin{align}
\mathrm{Res}(f,g)&=a_0^mb_0^l\prod_{i=1}^l\prod_{j=1}^m(\alpha_i-\beta_j)\\
&=a_0^m\prod_{i=1}^l g(\alpha_i)\\
&=(-1)^{lm}b_0^l\prod_{j=1}^m f(\beta_j)
\end{align}
$$
と表示できる.
このことから, $ \mathrm{Res}(f_1f_2,g)=\mathrm{Res}(f_1,g)\mathrm{Res}(f_2,g) $ であることがわかる.
例を挙げる.
$ f =x^2-4x+3 $,$ g =2x-4 $とする.このとき
$$
\begin{align}
\mathrm{Res}(f,g)=\det
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 0 \\
-4 & -4 & 2 \\
3 & 0 & -4
\end{pmatrix}
\end{align}=-4
$$
となって,共通根をもたないと判定できる.実際,$f=0$をとくと$x=1,3$,$g=0$をとくと$x=2$であり,共通根をもたない.
$f=(x-1)(x-3)$であることに注意すれば,$f_1=x-1,f_2=x-3$とみれば
$$
\begin{align}
\mathrm{Res}(f_1,g)\mathrm{Res}(f_2,g)=\det
\begin{pmatrix}
2 & 1 \\
-4 & -1
\end{pmatrix}
\det\begin{pmatrix}
2 & 1 \\
-4 & -3
\end{pmatrix}
\end{align}=2\cdot (-2)=-4
$$
となるので,$ \mathrm{Res}(f,g)=\mathrm{Res}(f_1,g)\mathrm{Res}(f_2,g) $が成立していることが確認できる.
なお,今回$g=f'$となっているが,一般に判別式 $D$ との関係として $\mathrm{Res}(f,f')=(-1)^{\deg f (\deg f -1)/2}\mathrm{LC}(f)D$ の関係があることが知られている.確かめてみると,$\deg f=2$,$\mathrm{LC}(f)=1$,$D=(-4)^2-4\cdot 3 = 4 $であることから,成立が確認できる.
2つの$k[x,y]$上の2変数多項式を考える:
$$
\begin{align}
F&=a_0x^l+ a_1 x^{ l - 1} y +\cdots+a_l y^l \quad (a_0\neq 0,l>0) \\
G&=b_0 x^m+ b_1 x^{ m - 1 } y +\cdots+b_m y^m \quad (b_0\neq 0,m>0)
\end{align}
$$
これに対する終結式$\mathrm{Res}(F,G)$は次で定義される.1変数の場合のものと同じである.
定義(終結式)
$F,G$ の
終結式 $\mathrm{Res}(F,G)$ とは,以下で定義される$(l+m)\times (l+m)$
行列式である:
$$
\begin{align}
\mathrm{Res}(F,G)=\det
\begin{pmatrix}
a_0 & & & & b_0 & & & \\
a_1 & a_0 & & & b_1 & b_0 & & \\
a_2 & a_1 & \ddots & & b_2 & b_1 & \ddots & \\
\vdots & a_2 & \ddots & a_0 & \vdots & b_2 & \ddots & b_0 \\
a_l & \vdots & \ddots & a_1 & b_m & \vdots & \ddots & b_1 \\
& a_l & & a_2 & & b_m & & b_2 \\
& & \ddots & \vdots & & & \ddots & \vdots \\
& & & a_l & & & & b_m
\end{pmatrix}
\end{align}
$$
1変数の場合の性質が2変数の場合には以下のように言い換えられる(整多項式性と共通因子性).
なお, $F,G$ の形から, $y=1$ とすれば $f,g$ と一致するので1変数の場合を特殊な場合として含むことがわかる.
終結式の性質
- $F,G$に対して,ある $\mathrm{Res}_{l,m}\in\mathbb{Z}[u_0,\ldots,u_l,v_0,\ldots,v_m]$ であって, $\mathrm{Res}(F,G)=\mathrm{Res}_{l,m}(a_0,\ldots,a_l,b_0,\ldots,b_m)$ となる多項式が存在する.
- $\mathbb{C}$ 上で $\mathrm{Res}(F,G)=0\,\Leftrightarrow\,$$F=G=0$ が $\mathbb{C}^2/(0,0)$ に解をもつ.
(この解を非自明解:nontrivial solutionという)
また,シルベスターの行列式の対角成分に注目することで,次のこともすぐにわかる.
終結式の性質
- $\mathrm{Res}(x^l,y^m)=1$
このセクションの内容は日本語の文献がない.さらに,英語の文献もほとんどない気がする.し,ガチの証明をしようとすると微分幾何が必要になったりする.
多重多項式終結式とは,上で2つ紹介してきたものの一般化.
「変数 $x_0,\ldots,x_n$の$n+1$ 個の斉次多項式 $F_0,\ldots,F_n$ の終結式」について考える.
仮定として,各$F_i$は正の全次数をもち,$\mathbb{C}$上で考えることにする.
$n+1$ 個の斉次多項式 $F_0,\ldots,F_n \in \mathbb{C} [x_0,\ldots,x_n] $があったとき,方程式系$F_0=\cdots=F_n=0$が非自明解を持つためには,$F_0,\ldots,F_n$の係数はどのような条件を満たさなければならないだろうか.
以下,記号として$P(F_1,\ldots,F_n)$のようなものを使うことがある.これは,$P \in \mathbb{C}[u_{i,\alpha}] $があったとき,$P$の各変数$u_{i,\alpha}$を対応する$F_i$の係数 $c_{i,\alpha}$ に取り替えることで得られる数(このような$P$を$F_i$の係数の多項式という)である.以下では $P$ に $\mathrm{Res}$ があてはまって使われることが多い.
定理
正の次数$d_0,\ldots,d_n$を固定する.このとき,次の性質をもつ唯一の
多項式$\mathrm{Res}\in\mathbb{Z}[u_{i,\alpha}]$が存在する:
- $F_0,\ldots,F_n\in\mathbb{C}[x_0,\ldots,x_n]$が次数$d_0,\ldots,d_n$の斉次多項式ならば,$F_0(x_0,\ldots,x_n)=\cdots=F_n(x_0,\ldots,x_n)=0$が$\mathbb{C}$上の非自明解を持つための必要十分条件は$\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)=0$
- $\mathrm{Res}(x_0^{d_0},\ldots,x_n^{d_n})=1$
- $\mathrm{Res}$は($\mathbb{C}[u_{i,d}]$の多項式としても)既約.
この定理の3条件を満たす
多項式$\mathrm{Res},\mathrm{Res}'\in\mathbb{Z}[u_{i,\alpha}]$をとる.このとき,条件a.から
$$
\begin{align}
\{(c_{i,\alpha})\in\mathbb{C}^M:F_0=\cdots=F_n=0が\mathbb{C}上の非自明解を持つ\}
&=\{(c_{i,\alpha})\in\mathbb{C}^M:\mathrm{Res}=0\} \\
&=\mathbf{V}(\mathrm{Res})
\end{align}
$$
零点定理(下に主張を述べる),条件3.(既約であること)を使うと
$$
\mathbf{I}(\mathbf{V}(\mathrm{Res}))=\sqrt{\langle\mathrm{Res}\rangle}=\langle\mathrm{Res}\rangle
$$
となる.$\mathrm{Res}'$は$\mathbf{V}(\mathrm{Res})$上で値が0になる
多項式であることから$\mathrm{Res}'\in\mathbf{I}(\mathbf{V}(\mathrm{Res}))=\langle\mathrm{Res}\rangle$なので,$\mathrm{Res}'$はある
多項式$f$を用いて$\mathrm{Res}'=f\cdot\mathrm{Res}$と表現できる.同様にして,ある
多項式$f'$を用いて$\mathrm{Res}=f'\cdot\mathrm{Res}'$と書けることもいえる(Exercise5a.).これらより,$\mathrm{Res}'=f\cdot(f'\cdot\mathrm{Res}')=ff'\cdot\mathrm{Res}'$がわかり$ff'=1$がいえるので,$f,f'$は定数である.
ここで,$\mathrm{Res}'(x_0^{d_0},\ldots,x_n^{d_n})=f\cdot\mathrm{Res}(x_0^{d_0},\ldots,x_n^{d_n})$を考えると$\mathrm{Res}(x_0^{d_0},\ldots,x_n^{d_n})=\mathrm{Res}'(x_0^{d_0},\ldots,x_n^{d_n})=1$なので$f=1$となる.ゆえに$\mathrm{Res}=\mathrm{Res}'$.
定理(零点定理強形)
体$k$が
代数的閉体で,$I\subset k[x_1,\ldots,x_n]$が
イデアルであるとき,
$$
\mathbf{I}(\mathbf{V}(I))=\sqrt{I}
$$
が成り立つ.
定義(終結式)
上の定理をみたす$\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)$を$F_0,\ldots,F_n$の
終結式という.(次数を明示して$\mathrm{Res}$を$\mathrm{Res}_{d_0,\ldots,d_n}$と書くこともある.)
このように定義された終結式は,2変数多項式終結式とも矛盾ないことが確認できる(既約かどうかは確認できないが...きっと既約なんだと思う).
例(n+1変数,n+1個の線形多項式)
終結式の例として,$n+1$ 個の変数 $x_0,\ldots,x_n$,$n+1$ 個の線形多項式 $F_0,\ldots,F_n$ の終結式,すなわち各々が $F_i=\sum_{j=0}^n c_{ij}x_j$ のように書かれているものを考えてみる( $c_{ij}$ が定数で $x_j$ が変数).
このとき,
$$
\mathrm{Res}_{1,\ldots,1}(F_0,\ldots,F_n)=\det(c_{ij})
$$
となる.定理の内容を確認してみる.
-
方程式系
$$
\begin{align}
F_0&=c_{00}x_0+\cdots+c_{0n}x_n=0 \\
& \vdots \\
F_n&=c_{n0}x_0+\cdots+c_{nn}x_n=0
\end{align}
$$
が非自明解をもつことの必要十分条件は $\det(c_{ij})=0$.
- $F_i=x_i$ なので,$c_{ij}=\delta_{ij}$.つまり$\det(c_{ij})=\det(\delta_{ij})=\det I=1$.
-
補題
$A=(a_{ij})$ とする.$\det A$ を変数 $a_{ij}$ の
多項式とみたとき, $\det A$ は既約
多項式である.
証明
$\det A=\varphi(A)\psi(A)$ と分解されたとする.このとき, $\det A$ は $a_{1j}$ に関して1次,すなわちそれらを積の形で含まない.ゆえに $a_{1j}$ たちは $\varphi(A)$ もしくは $\psi(A)$ のどちらかにしか含まれない.ここでは $\varphi(A)$ に含まれているとする. $\det A$ には $a_{1j}a_{ij}$ ( $i\neq 1$ )の形の積は含まれないので, $a_{1j}$ が $\varphi(A)$ に含まれるとき, $a_{ij}$ は $\psi(A)$ には含まれず, $\varphi(A)$ に含まれる.したがって, $\psi(A)$ は定数でしかありえないことがわかる.よって $\det A$ は既約
多項式である.
例(3変数,3元2次式)
他の例として,
$$
\begin{align}
F_0&=c_{01}x^2+c_{02}y^2+c_{03}z^2+c_{04}xy+c_{05}xz+c_{06}yz \\
F_1&=c_{11}x^2+c_{12}y^2+c_{13}z^2+c_{14}xy+c_{15}xz+c_{16}yz \\
F_2&=c_{21}x^2+c_{22}y^2+c_{23}z^2+c_{24}xy+c_{25}xz+c_{26}yz
\end{align}
$$
の終結式を考えてみると,これは
$$
\mathrm{Res}_{2,2,2}(F_0,F_1,F_2)=-\frac{1}{512}\det
\begin{pmatrix}
c_{01} & c_{02} & c_{03} & c_{04} & c_{05} & c_{06} \\
c_{11} & c_{12} & c_{13} & c_{14} & c_{15} & c_{16} \\
c_{21} & c_{22} & c_{23} & c_{24} & c_{25} & c_{26} \\
b_{01} & b_{02} & b_{03} & b_{04} & b_{05} & b_{06} \\
b_{11} & b_{12} & b_{13} & b_{14} & b_{15} & b_{16} \\
b_{21} & b_{22} & b_{23} & b_{24} & b_{25} & b_{26}
\end{pmatrix}
$$
の形で表される.
$F\in k[x_0,\ldots,x_n]$が全次数$\deg F$の斉次
多項式であるとき,
$$
F(tx_0,\ldots,tx_n)=t^{\deg F}F(x_0,\ldots,x_n)
$$
が成り立つ.$y_i=tx_i$とすると,上の等式を$t$で
微分することにより
$$
\sum_{i=0}^n\frac{\partial y_i}{\partial t}\frac{\partial F}{\partial y_i}=\sum_{i=0}^nx_i\frac{\partial F}{\partial x_i}=(\deg F)t^{\deg F-1}F(x_0,\ldots,x_n)
$$
となる.$t=1$とすれば
$$
\sum_{i=0}^nx_i\frac{\partial F}{\partial x_i}=(\deg F)F
$$
となる.これを利用すると,今回の場合$n=\deg F_0=\deg F_1=\deg F_2=2$なので
$$
\begin{split}
x\frac{\partial F_0}{\partial x}+y\frac{\partial F_0}{\partial y}+z\frac{\partial F_0}{\partial z}&=2F_0 \\
x\frac{\partial F_1}{\partial x}+y\frac{\partial F_1}{\partial y}+z\frac{\partial F_1}{\partial z}&=2F_1 \\
x\frac{\partial F_2}{\partial x}+y\frac{\partial F_2}{\partial y}+z\frac{\partial F_2}{\partial z}&=2F_2
\end{split}
$$
となる.行列の形で書けば
$$
\begin{pmatrix}
\frac{\partial F_0}{\partial x} & \frac{\partial F_0}{\partial y} & \frac{\partial F_0}{\partial z} \\
\frac{\partial F_1}{\partial x} & \frac{\partial F_1}{\partial y} & \frac{\partial F_1}{\partial z} \\
\frac{\partial F_2}{\partial x} & \frac{\partial F_2}{\partial y} & \frac{\partial F_2}{\partial z}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x \\ y \\ z\end{pmatrix}=2\begin{pmatrix}F_0 \\ F_1 \\ F_2\end{pmatrix}
$$
である.$F_0=F_1=F_2=0$の非自明解$x,y,z$に対しては,上の式は右辺が$0$となり,線形斉次方程式系となるので,この場合には係数の
行列式である$J=0$であることがわかる.
ここで,
$$\begin{pmatrix}
\frac{\partial F_0}{\partial x} & \frac{\partial F_0}{\partial y} & \frac{\partial F_0}{\partial z} \\
\frac{\partial F_1}{\partial x} & \frac{\partial F_1}{\partial y} & \frac{\partial F_1}{\partial z} \\
\frac{\partial F_2}{\partial x} & \frac{\partial F_2}{\partial y} & \frac{\partial F_2}{\partial z}
\end{pmatrix}
$$
の余因子行列を
$$\begin{pmatrix}
u_1 & v_1 & w_1 \\ u_2 & v_2 & w_2 \\ u_3 & v_3 & w_3
\end{pmatrix}
$$
と書く時,これを上の行列で書いた方程式系の両辺にかけることで
$$
\begin{split}
Jx&=2u_1 F_0+2v_1F_1+2w_1 F_2 \\
Jy&=2u_2 F_0+2v_2F_1+2w_2 F_2 \\
Jz&=2u_3 F_0+2v_3F_1+2w_3 F_2
\end{split}
$$
となる.$Jx$について$x,y,z$でそれぞれ
偏微分すると
$$
J+x\frac{\partial J}{\partial x}=2F_0\frac{\partial u_1}{\partial x}+2F_1\frac{\partial v_1}{\partial x}+2F_2\frac{\partial w_1}{\partial x}+2\left(\frac{\partial F_0}{\partial x}u_1+\frac{\partial F_1}{\partial x}v_1+\frac{\partial F_2}{\partial x}w_1\right)
$$
$$
x\frac{\partial J}{\partial y}=2F_0\frac{\partial u_1}{\partial y}+2F_1\frac{\partial v_1}{\partial y}+2F_2\frac{\partial w_1}{\partial y}+2\left(\frac{\partial F_0}{\partial y}u_1+\frac{\partial F_1}{\partial y}v_1+\frac{\partial F_2}{\partial y}w_1\right)
$$
$$
x\frac{\partial J}{\partial z}=2F_0\frac{\partial u_1}{\partial z}+2F_1\frac{\partial v_1}{\partial z}+2F_2\frac{\partial w_1}{\partial z}+2\left(\frac{\partial F_0}{\partial z}u_1+\frac{\partial F_1}{\partial z}v_1+\frac{\partial F_2}{\partial z}w_1\right)
$$
となる.同様の関係式が$Jy,Jz$についてもいえる.ここで,
$$
\begin{pmatrix}
\frac{\partial F_0}{\partial x} & \frac{\partial F_0}{\partial y} & \frac{\partial F_0}{\partial z} \\
\frac{\partial F_1}{\partial x} & \frac{\partial F_1}{\partial y} & \frac{\partial F_1}{\partial z} \\
\frac{\partial F_2}{\partial x} & \frac{\partial F_2}{\partial y} & \frac{\partial F_2}{\partial z}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
u_1 & _1 & w_1 \\ u_2 & v_2 & w_2 \\ u_3 & v_3 & w_3
\end{pmatrix}
=J
\begin{pmatrix}
1 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 1
\end{pmatrix}
$$
であること,特に$Jx$の場合は
$$
\begin{split}
\frac{\partial F_0}{\partial x}u_1+\frac{\partial F_1}{\partial x}v_1+\frac{\partial F_2}{\partial x}w_1&=J \\
\frac{\partial F_0}{\partial y}u_1+\frac{\partial F_1}{\partial y}v_1+\frac{\partial F_2}{\partial y}w_1&=0 \\
\frac{\partial F_0}{\partial z}u_1+\frac{\partial F_1}{\partial z}v_1+\frac{\partial F_2}{\partial z}w_1&=0
\end{split}
$$
となっていることに注意すると
$$
J+x\frac{\partial J}{\partial x}=2F_0\frac{\partial u_1}{\partial x}+2F_1\frac{\partial v_1}{\partial x}+2F_2\frac{\partial w_1}{\partial x}+2J
$$
$$
x\frac{\partial J}{\partial y}=2F_0\frac{\partial u_1}{\partial y}+2F_1\frac{\partial v_1}{\partial y}+2F_2\frac{\partial w_1}{\partial y}
$$
$$
x\frac{\partial J}{\partial z}=2F_0\frac{\partial u_1}{\partial z}+2F_1\frac{\partial v_1}{\partial z}+2F_2\frac{\partial w_1}{\partial z}
$$
がわかる.$F_0=F_1=F_2=0$をみたす非自明解$x,y,z$においては$J=0$であり,これら右辺の値は$0$となるので
$$
x\frac{\partial J}{\partial x}=x\frac{\partial J}{\partial y}=x\frac{\partial J}{\partial z}=0
$$
がわかる.同様にして$F_0=F_1=F_2=0$をみたす非自明解$x,y,z$においては
$$
y\frac{\partial J}{\partial x}=y\frac{\partial J}{\partial y}=y\frac{\partial J}{\partial z}=z\frac{\partial J}{\partial x}=z\frac{\partial J}{\partial y}=z\frac{\partial J}{\partial z}=0
$$
である.$x,y,z$のどれか1つは少なくとも$0$ではないので結局,
$$
\frac{\partial J}{\partial x}=\frac{\partial J}{\partial y}=\frac{\partial J}{\partial z}=0
$$
が$F_0=F_1=F_2=0$をみたす非自明解$x,y,z$において成り立つ.したがって,$F_0=F_1=F_2=\frac{\partial J}{\partial x}=\frac{\partial J}{\partial y}=\frac{\partial J}{\partial z}=0$を,
$$
\begin{pmatrix}
c_{01} & c_{02} & c_{03} & c_{04} & c_{05} & c_{06} \\
c_{11} & c_{12} & c_{13} & c_{14} & c_{15} & c_{16} \\
c_{21} & c_{22} & c_{23} & c_{24} & c_{25} & c_{26} \\
b_{01} & b_{02} & b_{03} & b_{04} & b_{05} & b_{06} \\
b_{11} & b_{12} & b_{13} & b_{14} & b_{15} & b_{16} \\
b_{21} & b_{22} & b_{23} & b_{24} & b_{25} & b_{26}
\end{pmatrix}\begin{pmatrix} x^2 \\ y^2 \\ z^2 \\ xy \\ xz \\ yz\end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \\ 0\end{pmatrix}
$$
とみた式の係数の
行列式は,非自明解をもつときに$0$となる.この
行列式を$D$とする.$D$は集合$\mathbf{V}(\mathrm{Res}_{2,2,2}) $上で$0$になるので,$D\in\mathbf{I}(\mathbf{V}(\mathrm{Res}_{2,2,2}))=\sqrt{\langle\mathrm{Res}_{2,2,2}\rangle}$(後ろの等式は零点定理による).$\mathrm{Res}_{2,2,2}$は既約である(
終結式の定義)から,$\sqrt{\langle\mathrm{Res}_{2,2,2}\rangle}=\langle\mathrm{Res}_{2,2,2}\rangle$.ゆえに$D\in \langle\mathrm{Res}_{2,2,2}\rangle$.したがって,ある
多項式$c$が存在して$D=c\mathrm{Res}_{2,2,2}$と書ける.
$c$ は定数であることを示す. $D$ の $c_{01},\ldots,c_{26}$ についての次数は,
行列式の定義から
$$
D=\sum_{σ\in S_6} \mathrm{sgn}(σ) c_{0σ(0)} c_{1σ(1)} c_{2σ(2)} b_{0σ(3)} b_{1σ(4)} b_{2σ(5)}
$$
のように書け,各 $b_{ij} $ は $c_{ij} $ の3次
多項式となっているので,全次数は$1+1+1+3+3+3=12$である.他方,$\mathrm{Res}_{2,2,2}(F_0,F_1,F_2)$の次数は定理(
終結式の次数)を使うと12であることが確認できる.したがって$c$は定数である.
$c $ を決定する.$F_0=x^2 ,F_1=y^2, F_2=z^2 $ とすると$J = 2x \cdot 2y \cdot 2z = 8xyz $となり,
$$
\mathrm{Res}_{2,2,2}(x^2,y^2,z^2)=\frac{1}{c}\det\begin{pmatrix}
1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 8 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 8 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 8 & 0 & 0
\end{pmatrix}=-\frac{1}{c}\det\begin{pmatrix}
1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 8 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 8 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 8
\end{pmatrix}=1
$$
となるので,$c=-512$とわかる.したがって,$\mathrm{Res}_{2,2,2}(F_0,F_1,F_2)$として初めに示した表示を得る.
なお,一般の終結式の構成法はこれに似ているらしい(ちゃんと見ていないが).
この$6\times 6$で表された行列式を展開すると21894個の項を持ち,とても書き下すことは難しい...
そこで,括弧式を使って簡略化をしようという考えがあったりする(次のセクション).
定理(終結式の次数)
固定した$j$($0\leq j\leq n$)について,$\mathrm{Res}$は$u_{j,\alpha}$($|\alpha|=d_j$)を変数とする次数$d_0\cdots d_{j-1}d_{j+1}\cdots d_n$の斉次
多項式である.すなわち,
$$
\mathrm{Res}(F_0,\ldots,\lambda F_j,\ldots,F_n)=\lambda^{d_0\cdots d_{j-1}d_{j+1}\cdots d_n}\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)
$$
である.さらに,$\mathrm{Res}$の全次数は$\sum_{j=0}^n d_0\cdots d_{j-1}d_{j+1}\cdots d_n$である.
後半は前半の主張を認めれば
$\mathrm{Res}(\lambda F_0,\ldots,\lambda F_j,\ldots,\lambda F_n)$ に対して上のことを繰り返し使うことで
$$
\mathrm{Res}(\lambda F_0,\ldots,\lambda F_j,\ldots,\lambda F_n)=\lambda^{\sum_{j=0}^n d_0\cdots d_{j-1}d_{j+1}\cdots d_n}\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_j,\ldots,F_n)
$$
となることからわかる.
定理(ポアソンの公式)
終結式 $\mathrm{Res}(\overline{F}_0,\ldots,\overline{F}_{n-1})$ が $\mathrm{Res}(\overline{F}_0,\ldots,\overline{F}_{n-1})\neq 0$ を満たすならば,商環 $A=\mathbb{C}[x_0,\ldots,x_{n-1}]/\langle f_0,\ldots,f_{n-1}\rangle$は$\mathbb{C}$ 上のベクトル空間として $d_0\cdots d_{n-1}$ 次元であって,さらに
$$
\mathrm{Res} (F_0,\ldots,F_n)=\mathrm{Res} (\overline{F}_0,\ldots,\overline{F}_{n-1})^{d_n}\det (m_{f_n}:A\to A)
$$
である.ただし, $m_{f_n}:A\to A$ は $f_n$ による乗法で定義される線形
写像.
証明には微分幾何の知識が必要なので省略.
終結式の対称性と積
定理(終結式の対称性と積)
- 多項式 $F_j=F_j'F_j''$ を,次数がそれぞれ $d_j',d_j''$ の斉次多項式の積とするとき,
$$
\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_j,\ldots,F_n)=\mathrm{Res} (F_0,\ldots,F_j',\ldots,F_n)\cdot \mathrm{Res} (F_0,\ldots,F_j'',\ldots,F_n)
$$
である.ただし,右辺の終結式は $d_0,\ldots,d_j',\ldots,d_n$ と $d_0,\ldots,d_j'',\ldots,d_n$ の斉次多項式についての終結式.
- $i < j$ のとき,
$$
\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_i,\ldots,F_j,\ldots,F_n)=(-1)^{d_0\cdots d_n}\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_j,\ldots,F_i,\ldots,F_n)
$$
である.ただし,右辺の終結式は次数が$d_0\ldots,d_j,\ldots,d_i,\ldots,d_n$である斉次多項式についての終結式.
$\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_j,\ldots,F_i,\ldots,F_n)\in \mathbf{I}(\mathbf{V}(\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_i,\ldots,F_j,\ldots,F_n)))=\langle\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_i,\ldots,F_j,\ldots,F_n)\rangle$がいえるので,ある
多項式$c_1$があって$\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_j,\ldots,F_i,\ldots,F_n)=c_1\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_i,\ldots,F_j,\ldots,F_n)$のように表現できる.同様にある
多項式$c_2$があって$\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_i,\ldots,F_j,\ldots,F_n)=c_2\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_j,\ldots,F_i,\ldots,F_n)$のように表現できる.これらより$c_1c_2=1$がわかるので,$c_1,c_2$は定数であることがわかる.このことに加え,
ポアソンの公式を利用して示す.
- $c,c',c''$はある定数とする.
$$
\begin{align}
\mathrm{Res}&(F_0,\ldots,F_j,\ldots,F_n) \\
&=c\cdot\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_{j-1},F_{j+1},\ldots,F_n,F_j) \\
&=c\cdot\mathrm{Res}(\overline{F}_0,\ldots,\overline{F}_{j-1},\overline{F}_{j+1},\ldots,\overline{F}_n)^{d_j}\det(m_{f_j}) \\
&=c\cdot\mathrm{Res}(\overline{F}_0,\ldots,\overline{F}_{j-1},\overline{F}_{j+1},\ldots,\overline{F}_n)^{d_j}\det(m_{f'_j})\det(m_{f''_j}) \\
&=c\cdot\mathrm{Res}(\overline{F}_0,\ldots,\overline{F}_{j-1},\overline{F}_{j+1},\ldots,\overline{F}_n)^{d_j}
\cdot\frac{\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_{j-1},F_{j+1},\ldots,F_n,F'_j)}{\mathrm{Res}(\overline{F}_0,\ldots,\overline{F}_{j-1},\overline{F}_{j+1},\ldots,\overline{F}_n)^{d'_j}}\cdot\frac{\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_{j-1},F_{j+1},\ldots,F_n,F''_j)}{\mathrm{Res}(\overline{F}_0,\ldots,\overline{F}_{j-1},\overline{F}_{j+1},\ldots,\overline{F}_n)^{d''_j}} \\
&=c\cdot\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_{j-1},F_{j+1},\ldots,F_n,F'_j)\cdot\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_{j-1},F_{j+1},\ldots,F_n,F''_j)\quad(\because d_j=d'_j+d''_j) \\
&= cc'c''\cdot\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_{j-1},F'_j,F_{j+1},\ldots,F_n)\cdot\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_{j-1},F''_j,F_{j+1},\ldots,F_n)
\end{align}
$$
ここで特に,$F_i=x_i^{d_i}$とすると
$$
\mathrm{Res}(x_0^{d_0},\ldots,x_j^{d_j},\ldots,x_n^{d_n})= cc'c''\cdot\mathrm{Res}(x_0^{d_0},\ldots,x_{j-1}^{d_{j-1}},x_j^{d'_j},x_{j+1}^{d_{j+1}},\ldots,x_n^{d_n})\cdot\mathrm{Res}(x_0^{d_0},\ldots,x_{j-1}^{d_{j-1}},x_j^{d''_j},x_{j+1}^{d_{j+1}},\ldots,x_n^{d_n})
$$
つまり
$$
1= cc'c''\cdot 1\cdot 1
$$
となるので
$$
cc'c''=1
$$
$c,c',c''$は定数であったので任意の$F_i$に対して
$$
\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_j,\ldots,F_n)=\mathrm{Res} (F_0,\ldots,F_j',\ldots,F_n)\cdot \mathrm{Res} (F_0,\ldots,F_j'',\ldots,F_n)
$$
が成り立つ.
-
定数$c$を用いて$\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_i,\ldots,F_j,\ldots,F_n)=c\cdot\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_j,\ldots,F_i,\ldots,F_n)$と書ける.特に$F_i=x_i^{d_i}$とすると,bを繰り返し用いることで,左辺は
$$
\begin{align}
\mathrm{Res}(x_0^{d_0},\ldots,x_i^{d_i},\ldots,x_j^{d_j},\ldots,x_n^{d_n})
&=\mathrm{Res}(x_0,\ldots,x_i,\ldots,x_j,\ldots,x_n)^{d_0\cdots d_n} \\
&=(\det I)^{d_0\cdots d_n} \quad (\because \mathrm{Res}_{1,\ldots,1}(F_0,\ldots,F_n)=\det(c_{ij}))\\
&=1
\end{align}
$$
右辺(の$\mathrm{Res}$)は,$I'$を単位行列$I$の$i$列目と$j$列目を入れ替えた行列とすると
$$
\begin{align}
\mathrm{Res}(x_0^{d_0},\ldots,x_j^{d_j},\ldots,x_i^{d_i},\ldots,x_n^{d_n})
&=\mathrm{Res}(x_0,\ldots,x_j,\ldots,x_i,\ldots,x_n)^{d_0\cdots d_n} \\
&=(\det I')^{d_0\cdots d_n}\\
&=(-1)^{d_0\cdots d_n}
\end{align}
$$
よって
$$
1=c(-1)^{d_0\cdots d_n}
$$
が成り立つので
$$
c=(-1)^{d_0\cdots d_n}
$$
がいえて,
$$
\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_i,\ldots,F_j,\ldots,F_n)=(-1)^{d_0\cdots d_n}\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_j,\ldots,F_i,\ldots,F_n)
$$
が成り立つ.
その他
定理(多項式の線形結合,括弧での略記)
-
$F_j$ が全次数 $d$ の斉次多項式であって, $G_i=\sum_{j=0}^n a_{ij}F_j$ (ただし, $A=(a_{ij})$ は $\mathbb{C}$ の元を成分とする可逆行列)であるとき,
$$
\mathrm{Res}(G_0,\ldots,G_n)=(\det A)^{d^n}\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)
$$
が成り立つ.
- 全次数$d$の単項式全体を$x^{\alpha(1)},\ldots,x^{\alpha(N)}$とし,$n+1$個の異なる添字 $1\leq i_0 < \cdots < i_n\leq N $ について括弧$[i_0\ldots i_n]$を行列式を用いて以下のように定義する:
$$
[i_0\ldots i_n]=\det(u_{i,\alpha(i_j)})\in\mathbb{Z}[u_{i,\alpha(j)}]
$$
このとき,$\mathrm{Res}$は括弧$[i_0\ldots i_n]$の多項式である.
- 各 $ i $ について $ G_i=\sum_{j=0}^na_{ij}F_j\in\langle F_0,\ldots,F_j\rangle $ が成り立つので, $ \langle G_0,\ldots,G_n\rangle\subset\langle F_0,\ldots,F_n\rangle $ .また,
$ A^{-1}=(\overline{a}_{ij}) $ とかくと $ G_i=\sum_{j=0}^n\overline{a}_{ij}F_j $ と書ける.これより,同様にして各 $ i $ について $ F_i=\sum_{j=0}^n\overline{a}_{ij}G_j\in\langle G_0,\ldots,G_j\rangle $ が成り立つので, $ \langle F_0,\ldots,F_n\rangle\subset\langle G_0,\ldots,G_n\rangle $ .ゆえに $ \langle F_0,\ldots,F_n\rangle=\langle G_0,\ldots,G_n\rangle $ .これより $ \mathbf{V}(\langle F_0,\ldots,F_n\rangle)=\mathbf{V}(\langle G_0,\ldots,G_n\rangle) $ がわかる.よって $ \langle\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)\rangle=\langle\mathrm{Res}(G_0,\ldots,G_n)\rangle $ となる(?).したがって, $ u_{i,\alpha} $ に依存しない, $ A $ の要素 $ a_{ij} $ の多項式 $ \varphi(A) $ を用いて
$$
\mathrm{Res}(G_0,\ldots,G_n)=\varphi(A)\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)
$$
と書ける.ここで $ H_i=\sum_{j=0}^n\sum_{k=0}^n b_{ik}a_{kj}F_j=\sum_{k=0}^n b_{ik}\sum_{j=0}^n a_{kj}F_j=\sum_{k=0}^n b_{ik}G_k $ とすれば, $ BA=(\sum_{k=0}^n b_{ik}a_{kj}) $ なので,
$$
\mathrm{Res}(H_0,\ldots,H_n)=\varphi(BA)\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)
$$
が成り立つ.また,
$$
\begin{align}
\mathrm{Res}(H_0,\ldots,H_n)
&=\varphi(B)\mathrm{Res}(G_0,\ldots,G_n)\\
&=\varphi(B)\varphi(A)\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)
\end{align}
$$
となる.これらを比較すると
$$
\varphi(BA)=\varphi(B)\varphi(A)
$$
が成り立つことがわかる.下の補題より,ある自然数 $ m $ があって $ \varphi(A)=(\det A)^m $ と書けることがわかる.よって,
$$
\mathrm{Res}(G_0,\ldots,G_n)=(\det A)^m\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)
$$
ここで, $ a_{00}=\lambda $ , $ a_{ii}=1 $ ( $ 1\leq i\leq n $ ), $ a_{ij}=0 $ ( $ i\neq j $ )とすると $ \det A=\lambda $ であり
$$
\mathrm{Res}(\lambda F_0,F_1,\ldots,F_n)=\lambda^m\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)
$$
となる.ここで,各 $ i $ について $ F_i $ の全次数 $ d_i=d $ であることに注意して定理(終結式の次数)を用いると
$$
\mathrm{Res}(\lambda F_0,F_1,\ldots,F_n)=\lambda^{d^n}\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)
$$
が成り立つことがわかる.これらを比較することで $ m=d^n $ を得る.したがって
$$
\mathrm{Res}(G_0,\ldots,G_n)=(\det A)^{d^n}\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n)
$$
が成り立つ.
- $ \det A=1 $ ならば, $ \mathrm{Res}(G_0,\ldots,G_n)=\mathrm{Res}(F_0,\ldots,F_n) $ となる.したがって, $ \mathrm{Res} $ は $ n+1 $ 個の次数 $ d $ の斉次多項式の組における $ \mathrm{SL}(n+1,\mathbb{C})=\{A\in M_{(n+1)\times(n+1)}(\mathbb{C}):\det A=1\} $ の作用で不変である.普遍多項式(係数が定数ではなく変数であるとみた多項式) $ \mathbf{F}_i $ の係数を $ (n+1)\times N $ 行列 $ (u_{i,\alpha(j)}) $ と思うと,この作用は $ \mathrm{SL}(n+1,\mathbb{C}) $ の元による行列の積である.終結式 $ \mathrm{Res} $ はこの作用で不変なので,不変式論における第1基本定理:
定理(第1基本定理)
$ X=(x_{ij}) $ を $ n\times d $ 行列とする.不変式環 $ \mathbb{C}[x_{ij}]^{\mathrm{SL}(d,\mathbb{C})}=\{f(x_{ij})\in\mathbb{C}[x_{ij}]:AX=X,\forall A\in\mathrm{SL}(d,\mathbb{C})\} $ は $ X $ の $ d\times d $ 小行列 $ X_k $ たちから生成される.
より, $ \mathrm{Res} $ は $ (u_{i,\alpha(j)}) $ の $ (n+1)\times(n+1) $ 小行列式の多項式である.この小行列はまさに括弧 $ [i_0\ldots i_n] $ である.
補題
可逆な正方行列$A,B$の要素の
多項式が
$$
\varphi(AB)=\varphi(A)\varphi(B)
$$
を満たすとき,$\varphi(A)=(\det A)^k$($k$は
自然数)である.
$A=\lambda I,B=\mu I$ とする.このとき
$$
\varphi(\lambda I\cdot \mu I)=\varphi(\lambda\mu I)=\varphi(\lambda I)\varphi(\mu I)
$$
が成り立つ.ここで,ある
自然数 $m $ と
複素数 $c_i$ ( $c_m\neq 0$ )が存在して $\mu(\lambda I)=\sum_{i=0}^m c_i\lambda^i$ と書ける.これより
$$
\varphi(\lambda\mu I)=\sum_{i=0}^m c_i\lambda^i\mu^i
$$
$$
\varphi(\lambda I)\varphi(\mu I)=\sum_{i=0}^m\sum_{j=0}^mc_ic_j\lambda^i\mu^j
$$
これらは等しいので, $\mu^m $の係数を比較すると
$$
c_m\lambda^m=\left(\sum_{j=0}^m c_j\lambda^j\right)c_m
$$
これより, $c_m=1$ , $c_i=0$ (ただし$i\neq m $)となることがわかる.したがって $ \varphi ( \lambda I) = \lambda^m $ となる.ここで,$\tilde{A}$を$A$の余因子行列とすれば $A\tilde{A}=(\det A)I$ が成立し,
$$
\varphi(A\tilde{A})=\varphi((\det A)I)=(\det A)^m=\varphi(A)\varphi(\tilde{A})
$$
が成り立つ. $\varphi(A)$ は $a_{ij}$ の
多項式であり, $\tilde{A}$ の要素は $a_{ij}$ の
多項式であるから $\varphi(\tilde{A})$ も $a_{ij}$ の
多項式である.前のセクションで示した
補題より $\det A$ は $a_{ij}$ の既約
多項式なので,定数 $c$ と$ k +l =m $をみたす
自然数$k,l$があって$\varphi(A)=c(\det A)^k$, $\varphi(\tilde{A})=c^{-1}(\det A)^l$ が成り立つ.ふたたび $A=\lambda I$ とし, $A$ が $n\times n$ 行列であるとすれば
$$
\varphi(\lambda I)=c\lambda^{nk}=\lambda^m
$$
が任意の$\lambda$について成立するので, $c=1$ (であり, $m=nk$ )である.したがって,ある
自然数 $m $ が存在して
$$
\varphi(A)=(\det A)^m
$$
が成り立つ.
逆に,$ \varphi(A)=(\det A)^m $とすれば $ \varphi(AB)=\varphi(A)\varphi(B) $ が成り立つことはただちにわかる.
再び前のセクションで考えていた3個の3元2次式
$$
\begin{align}
F_0&=c_{01}x^2+c_{02}y^2+c_{03}z^2+c_{04}xy+c_{05}xz+c_{06}yz \\
F_1&=c_{11}x^2+c_{12}y^2+c_{13}z^2+c_{14}xy+c_{15}xz+c_{16}yz \\
F_2&=c_{21}x^2+c_{22}y^2+c_{23}z^2+c_{24}xy+c_{25}xz+c_{26}yz
\end{align}
$$
の終結式を考えてみると,これは
$$
\mathrm{Res}_{2,2,2}(F_0,F_1,F_2)=-\frac{1}{512}\det
\begin{pmatrix}
c_{01} & c_{02} & c_{03} & c_{04} & c_{05} & c_{06} \\
c_{11} & c_{12} & c_{13} & c_{14} & c_{15} & c_{16} \\
c_{21} & c_{22} & c_{23} & c_{24} & c_{25} & c_{26} \\
b_{01} & b_{02} & b_{03} & b_{04} & b_{05} & b_{06} \\
b_{11} & b_{12} & b_{13} & b_{14} & b_{15} & b_{16} \\
b_{21} & b_{22} & b_{23} & b_{24} & b_{25} & b_{26}
\end{pmatrix}
$$
の形で表されるのだった.
全次数2の6個の単項式を$x^2,y^2,z^2,xy,xz,yz$と並べると括弧$[i_0i_1i_2]$は
$$
[i_0i_1i_2]=\det\begin{pmatrix}
c_{0i_0} & c_{0i_1} & c_{0i_2} \\
c_{1i_0} & c_{1i_1} & c_{1i_2} \\
c_{2i_0} & c_{2i_1} & c_{2i_2}
\end{pmatrix}
$$
と表せる.これを用いると$\mathrm{Res}_{2,2,2}(F_0,F_1,F_2)$は
$$
\begin{align}
\mathrm{Res}_{2,2,2}(F_0,F_1,F_2)
= & \,[145][246][356][456] − [146][156][246][356] − [145][245][256][356] \\
& − [145][246][346][345] + [125][126][356][456] − 2[124][156][256][356] \\
& − [134][136][246][456] − 2[135][146][346][246] + [235][234][145][456] \\
& − 2[236][345][245][145] − [126]^2[156][356] − [125]2[256][356] \\
& − [134]^2[246][346] − [136]^2[146][246] − [145][245][235]^2 \\
& − [145][345][234]^2 + 2[123][124][356][456] − [123][125][346][456] \\
& − [123][134][256][456] + 2[123][135][246][456] − 2[123][145][246][356] \\
& − [124]^2[356]^2 + 2[124][125][346][356] − 2[124][134][256][356] \\
& − 3[124][135][236][456] − 4[124][135][246][356] − [125]^2[346]^2 \\
& + 2[125][135][246][346] − [134]2[256]2 + 2[134][135][246][256] \\
& − 2[135]^2[246]^2 − [123][126][136][456] + 2[123][126][146][356] \\
& − 2[124][136]2[256] − 2[125][126][136][346] + [123][125][235][456] \\
& − 2[123][125][245][356] − 2[124][235]2[156] − 2[126][125][235][345] \\
& − [123][234][134][456] + 2[123][234][346][145] − 2[236][134]^2[245] \\
& − 2[235][234][134][146] + 3[136][125][235][126] − 3[126][135][236][125] \\
& − [136][125]^2[236] − [126]^2[135][235] − 3[134][136][126][234] \\
& + 3[124][134][136][236] + [134]^2[126][236] + [124][136]^2[234] \\
& − 3[124][135][234][235] + 3[134][234][235][125] − [135][234]^2[125] \\
& − [124][235]^2[134] − [136]^2[126]^2 − [125]^2[235]^2 \\
& − [134]^2[234]^2 + 3[123][124][135][236] + [123][134][235][126] \\
& + [123][135][126][234] + [123][134][236][125] + [123][136][125][234] \\
& + [123][124][235][136] − 2[123]^2[126][136] + 2[123]^2[125][235] \\
& − 2[123]^2[134][234] − [123]^4
\end{align}
$$
と書き表せる.$\mathrm{Res}_{2,2,2}$は$c_{ij}$について全次数が12,各括弧の全次数は3なので,$\mathrm{Res}_{2,2,2}$は括弧の全次数4の多項式とみなせる.上の式はかなり複雑だが,$c_{ij}$の多項式で表現した場合は21894個の項だったものが括弧を使うと68個の項で表現できているので,$c_{ij}$での表示と比較すると括弧での表示はかなり単純化されているといえる.
参考文献
[1] D. Cox, J. Little and D. O’Shea. Using Algebraic Geometry, 2nd edition, Springer-Verlag, 2005.
[2] I.R.Shafarevich. Basic Algebric Geometry 1. (Third Edition). Springer-Verlag, 2013.
[3] J.Jouanolou. Le formalisme du résultant, Advances in Math. 90 (1991), 117-263.
[4] B. Sturmfels. Algorithms in Invariant Theory, Springer-Verlag, 1993.
[5] D. Cox, J. Little and D. O’Shea. Ideals, Varieties, and Algorithms, 2nd edition, Springer-Verlag, 1996.
[6] 伊理 正夫,岩波講座応用数学1 基礎1 線形代数1, 岩波書店, 1993.
[7] 計算機代数ゼミ発表資料 - konn-san.com